クモハゼ雄の精子塗り付け行動
(25.4MB, 00:00:57)撮影日:2014/06/04
撮影場所:長崎大学 進化・行動生態学研究室
竹垣 毅
(Takegaki Takeshi)
2016/12/28登録
種類:クモハゼ,
Bathygobius fuscus
キーワード:精子競争 繁殖戦術 スニーキング ハゼ 魚
動物界 >不明 >不明 >不明 >不明 >不明 >
もしくは動物界 >脊索動物門 >硬骨魚綱 >スズキ目 >ハゼ科 >クモハゼ属 >
魚類の多くは体外受精を行い,産卵の際に雌と雄が近接して放卵と放精を同時、あるいは放卵直後に放精するのが一般的である。しかし、ハゼ科魚類の数種では、産卵巣を占有して雌とペア産卵を行う「ネストホールディング戦術」を採用するネストホルダー雄が,産卵前に精子を含む粘性物質を巣に塗り付ける産卵前精子塗り付け行動が知られている。粘性物質を産生する精巣付属器官はネストホルダー(NH)雄で大きく発達していることから、この行動は、ペア産卵に侵入して放精する代替繁殖戦術「スニーキング(こそ泥)戦術」を採用するスニーカー(SK)雄への対抗戦術と考えられている。
本動画の前半(2014.6/4撮影)では、産卵前の巣内でクモハゼのNH雄が産卵巣の内壁に生殖突起を左右に擦り付けるように動かす様子を見ることができます。肉眼では見ることができませんが、この時に精子を含む粘性物質を塗り付けていると考えられます。精子は、その粘性物質が徐々に海水に溶けることで海水中に放出され、活性化し,後から産み付けられた卵に受精します。
後半の動画(2015.7/25撮影)は、ペア産卵中に巣内に侵入したSK雄(画面左)がNH雄(右)と同様に精子を塗り付けている様子です(中央は産卵中の雌)。SK雄が巣に侵入した際の滞在時間は数秒から十数秒程度であり、また、粘性物質を産生する精巣付属器官も極めて小さいことから、SK雄の放精は海水中に放出するオーソドックスなタイプと考えていましたが、今回の観察から少なくとも塗り付けもできることが分かりました。NH雄のそれとは異なり、SK雄の塗り付けでは白い精液が肉眼でもはっきりと見ることができます。SK雄の精巣は非常に大きく発達しており、NH雄より1回の射精量が多いのかもしれません。ただし、塗り付けられた精子は数秒で海水中に分散してしまいました。精子塗り付けを行う他のハゼ類では、産卵前の巣にSK雄が侵入し、その後行われた産卵で父性を獲得していることが報告されています。